Further beyond / Megumi Kato
フリーランスで活動するヘアメイクアップアーティスト・加藤恵さん。これまで訪れた国は、33カ国というほどの旅好きで、バックパックで中南米の奥地や東南アジアの山岳地帯の民族に会いに旅に出ている。フリーランスという特性を活かして時間が空けば、一人でどこへでも。最近はコロナ禍で始めたという、車中泊にもハマっているそう。今回は、加藤さんの旅の目的の一つ、民族衣装やその土地の風習を垣間見ることのできるフェスティバルを中心に、これまでの旅の話をお聞きしました。
ヘアメイクのアシスタントを経て、2009年に独立。初めての一人旅、NYへ。
「今はバックパックを背負って、様々な場所へ行っていますが、当時は旅慣れていないために荷物も多く、英語も全く分からず、色々な人の手を借りながらどうにかホテルまでたどり着くことが出来た時は、達成感でいっぱいになりました。」
NYの旅から5年後の2014年。一人旅にハマったきっかけとなったペルーとボリビアの旅。
「ペルー・マチュピチュ、ボリビア・ウユニ塩湖のリフレクションがどうしても見たくて、1ヶ月の旅に出る事に。ウユニ塩湖のリフレクションを見れる時期が雨季なので時期が限られています。せっかく行くならゆっくり回りたかったので、1ヶ月行こうと。長期休暇を取れる友人もなかなかいないし、タイミングは限られています。すごく怖くてとても迷ったけど、『今しかない!一人で行ってみよう!!』と怖さより好奇心が勝った瞬間でした。ここから怖さというものが消えた気がします。地球の裏側、スペイン語圏、しかも南米。ここに来ることが出来たなら、どこへでも行ける気がする!行きたいところにどんどん行こう、と。」
加藤さんの多彩な旅のはじまり。
民族衣装にハマったきっかけ
ペルーの先住民・インディヘナ
「もともとネイティブアメリカンが気になっていたこともあり、アメリカ・ニューメキシコからサンフランシスコの旅の途中に出会った、長髪や三つ編みに結っている彼らの姿に惹かれました。完全に民族衣装にハマったのは、華やかで色彩豊かなメキシコ、ペルー、ボリビアの旅です。見ているだけで幸せになり、なぜかテンションが上がる。独特な色や柄の組み合わせ、黒の装いの中にポイントで色を差す。その国や町の特徴、村のスタイルが伝承されているそんな姿をみると、キュンとします。観光用ではなく普段着として着ている姿がみたい。そしてどんな生活を送っているのか知りたい。そこにとても興味が湧きました。」
グアテマラ
色彩溢れる織物・伝統的なグアテマラ・レインボー。
「長方形の布からできたウイピルと呼ばれる貫頭衣の民族衣装。グアテマラの民族衣装は、そこに施されている刺繍が村ごとに違います。鳥や花、幾何学模様などがあり、基本女性が身に付けていることが多いです。大きなマーケットに行った際、気になった刺繍の方に声をかけてどこの村なのか聞き、行き方を調べて実際に村を訪ねたりもしました。」
トドスサントスクチュマタン
「山道をひたすら登りながらのバス移動。なかなかの秘境。到着するなり目の前に現れたのは、赤いストライプ柄のパンツに白シャツ、ハットの男性達。ここでは年齢関係なく、ほぼ全員の男性が民族衣装を着ていました。」
サンファン・アティタン
ナワラ
メキシコ
地域に根付いたお祭りが多く、伝統衣装を目にすることが多い。
「サン・クリストバル・デ・ラス・カサス(通称サンクリ)から1時間奥まった、チェナローという村で出会った4人の男性。この日はお祭りだったようで、膝上の白いスカートを履いてご機嫌な帽子を被っていました。流石に可愛すぎて少しチップを渡し(笑)たくさん写真を撮らせてもらいました。」
オアハカから乗合タクシーに乗り、手織りラグの村・テオティトラン・デル・バジェへ。
「羊毛で織ったラグのことを『タペテ』と言い、羊から毛を刈るところから始まり、糸を作り、染めて織機で織るところまで全てが手作業。好みのラグや小物が沢山ありすぎて大変!」
ベトナム
ベトナム北部にいる花モン族
モン族は、白、黒、青、花と4種類の民族からなる。特に花モン族の衣装は【幸せを呼ぶ色】とされる赤やピンクをベースに、ネオンでサイケな刺繍も特徴。
「ベトナム少数民族の中でもカラフルな衣装を身に纏うことで有名で、柄×柄の重ね着やフリフリのスカートが特徴的です。ベトナム北部のラオカイ省にあるバクハという街のサンデーマーケットは、毎週少数民族の方達で溢れ、花モン族に多く出会えるマーケットです。民族衣装も沢山売られ、お買い物を楽しんでいました。」
バクハ
カンカウ
ミャンマー
チャイントンホーラン村・エン族
「外国人がチャイントンに行くには、ミャンマーの他の町から陸路では行けず、飛行機で入るか、お隣の国タイから陸路で入るしかない少し大変な場所。それでもリアルな山岳民族に会いに行くために、飛行機で飛びました。民族の村に行く時には、必ずガイドさんを雇って行きます。安全面もそうですが、その国の言語ではなく、それぞれが使っている言語があるので、コミュニケーションを取る為にも必要なのです。ガイドさんがいる事により家の中にお邪魔させて貰えたり、一緒にお茶を飲んだり、生活を垣間見ることが出来るのです。
少しでも役に立てば良いなという気持ちと直接作り手から買いたいという思いで、手作りのお土産は、彼ら本人からなるべく買うようにしています。そして、お別れの時はお金ではなく、お薬や食品など、生活に必要なものを御礼として渡してもらいます。経済的には貧しいけど、常に笑顔で溢れていて豊かな心の美しさを感じました。」
お歯黒のエン族
女性の頭飾りが特徴的なアカ族
織物が素敵なパラウン族
ウズベキスタン
中央アジアの伝統的な装飾用刺繍生地・スザニ
「全てのモチーフに意味があり、細かい刺繍が美しいスザニ。私もスザ二を求めてウズベキスタンに行きました。ここはスザニで有名なサマルカンド近くのウルグットにあるバザールで、お手頃価格で買えるとのこと。アンティークスザ二は国外持ち出し禁止みたいなのですが、新しいものは持って帰れるので、良き一枚に出会うべくスザニ探しに没頭しました。」
「言語はウズベク語とロシア語が主。全く英語が通じないので、電車のチケットを買うにもひと苦労。簡単な英単語やジェスチャーも伝わらず、それでも何とか読み取ろうとしてくれたり、助けたいという気持ちが伝染し、たくさんの人が集まってくれました。英語が話せる人に電話をしてくれる方もいて、ウズベク人はとても優しく温かったです。」
シルクの産地・ウズベキスタン東部にあるフェルガナ地方・マルギラン
「たまたま泊らせてもらった宿に、工房が併設されていたので見学させてもらいました。フォトジェニックな織り機がたまらなく、今も昔ながらの手法で作られているみたいです。モノ作りの工程を見ることが出来て、本当に興味深い貴重な時間でした。」
サマルカンドにある絨毯工房。
「シルクの糸で細かく織られた極上な触り心地。ゆっくりと流れる時間の中、作業する手はとてもスピーディーで、心地よく軽快なリズム。ずっと見学をしていたら、少し作業させてもらえる事になり、働いている子たちと女子トークをしながらの繊細な作業は、何とも良い時間でした。」
ヘアメイクに落とし込むこと
リボン使い
「現地で見たものをそのまま取り入れるのではなく、『これをこうにしたらヘアメイクの現場でも使えそうかな!』とイメージを膨らましながら、インプットしています。中南米はリボン使いがうまく、髪に編み込んでいくスタイル。現地の小物や紐は、いつか現場で使えると思い、ついつい買ってしまいます。」
仲良くなるために日本から持っていくもの・コミュニケーションの取り方
シール
「日本のキャラクターや富士山、ぷっくりしたシールを顔や腕に貼ってあげると、子供達はとても喜んでくれます。ヘアゴムやピン、パッチン留めで髪を結ってあげたりすると、すごく笑顔になってくれるので、良いコミュニケーションツールになります。距離がグッと近づくので、そこからアイコンタクトが始まり会話が生まれ、心が少し通じるのが嬉しいです。言語が同じでなくても、コミュニケーションは取れると思っています。そこに住む人々、その人を知りたいから声を掛ける。簡単な単語やジェスチャーでも、ネイティブのように英語が喋れなくても、その土地の言語が分からなくてもどんどん話しかけてしまいます」
お祭り
宗教やその土地の風習が色濃く出る祭典、フェスティバル、祝宴、行事ごと。特に、人が亡くなる時の国や土地のそれぞれの死生観。
メキシコ・オアハカ
『死者の日(day of the dead)』
11月1日は子供の魂、2日には大人の魂が返ってくるとされ、Ofrenda(オフレンダ)Altar(アルタール)と呼ばれる祭壇が町の至る所に設置されてカラフルに彩られる。
「日本でいうお盆です。家族が集まって、お墓の前で料理を食べてお酒を飲み、歌って踊って、みんなで賑やかに故人の魂と先祖をお迎えします。とにかくこちらは明るく楽しくハッピーに過ごす。オアハカの街は、まさにリメンバーミーの世界。地元民や観光客で溢れ、仮装やライトアップした祭壇やお墓、とても華やかでした。」
グアテマラ
グアテマラの死者の日・el dia de los muertos
凧は死者との魂を現世に繋いで、それに乗って戻ってくるという意味があるそう。
「メキシコと違い、グアテマラの死者の日は、巨大で鮮やかな色と柄の凧をカラフルなお墓の会場で揚げます。地元の人はお墓の上で小さな凧上げをしていたり、ピクニックのように楽しんでいました。」
「グアテマラには、タバコと女性とお酒が好きな『マシモン』という土着の宗教があります。普通のお宅にいるので探すのがとても大変。私が行った時は、ご夫婦が泣きながらお祈りをしていたので、独特な神様だけど、信仰心が深いのだなと感じました。」
ネパール
首都カトマンズは神々が多いとされ、シヴァ神を祀るヒンドゥー四大寺院のひとつ、パシュパティナート。パシュパティナートはヒンドゥー教徒の聖地であり、そこに流れるガンジス川の支流、聖なるバグマティ川。
「川縁にご遺体を焼く火葬台があり、ご遺灰を川に流す。火葬師という職業がいることで有名なこの場所は、一日中ご遺体を焼いている煙でモクモクとしていました。普段なかなか見ることの出来ない光景だと思います。」
ベトナム・ハザン
旧正月・テト(Tết)
ベトナム最北端、ハザン省。険しい山々、棚田など自然豊かでユネスコ世界地質遺産に登録。文化と伝統を守り何年にもわたってそれを繋いでいる少数民族の人々が数多く暮らしている。
「中国雲南省の国境に近いので、飾り付けも中国色が強く、どこもかしこも赤で溢れ、街がワクワクしている感じでした。日本にいると、旧正月を意識することはないので、現地の旧正月の熱気を感じられて面白かったです。」
「ハザン省の隣・ラオカイ省での1day tourは、家主のチュン、一緒の宿だったスイス人のエリザベスと共に、車で周辺の村を回りました。途中、Tay族の村・BAN LIENでWedding partyが行われていて、誘われるがまま行ってみることに。大きなお家の周りを可愛く飾り付けされていました。女性は川でチキンを洗って下ごしらえしたり、料理をしたり。男性は広い部屋でお酒を飲み、豚の解体をしていたり。飲め飲めとお誘いを受けましたが、チュンとエリザベスが外で待っていたので、泣く泣くお暇しました。」
ニューメキシコ・アルバカーキ バルーンフェスティバル
1972年から続くお祭りで、毎年10月に9日間開催され、世界中から多くの気球が集まる大きな規模のバルーンの祭典、Albuquerque International Balloon Fiesta。
「ニューメキシコのアルバカーキからサンフランシスコまで車で移動する1ヶ月の旅、そのスタート地点でした。風の影響で何度か延期になってしまい、何日か待ってやっと開催。ようやくこのアメリカの旅が始まりました。」
8年越し、ついにオキーフに会いに
アシスタント時代に出会ったアメリカモダニズムの母、画家ジョージア・オキーフ。季節ごとに移り住み、彼女が晩年を過ごしたアビキューとゴーストランチの家。
「TV番組の収録現場。その番組の特集だったことで、オキーフを知りました。動物の骨と花の組み合わせ、花のクローズアップの艶かしさ。それを女性が描いているのかと感激しました。それから画集を買い集め、いつか行きたいと思っていた念願の場所。彼女の骨を撒いたゴーストランチでは、誰もいない場所にたった一人でいる時、長年の想いが溢れ、涙が止まりませんでした。とても感慨深かったです。」
「ゴーストランチの標識が見えた瞬間から胸の高まりが止まず、絵や写真を見てずっと思い続けていた場所に、やっと、、やっと来れた!オキーフが見ていた、暮らしていた世界がここにある。何故こんなにも好きなのか分からないけど、オキーフのことを考えるだけで涙が出て、胸がギューとなります。ゴーストランチのお家はまだ見れてないので、もう一回絶対に行きたいと思います。」
危ない場所で注意している、気をつけていること
自分の勘を信じる
「この道、この人、なんかやばそうだなという嫌な感覚があったら、遠回りをしてでも無理はしません。一人だからこそ気を張っているので、そういう感覚は鋭くなっていると思います。一人の時には家に行かないなど、リスキーなことはしないようにしています。
ローカルな乗り物で移動する時は、後ろの席に座らない。なるべく運転手さんの近くや前方の座席に座ります。後ろは人の目が届きづらく、何かされてからだと遅いので回避しています。
とはいえ、旅では人との出会いは大切。友人と一緒にニューメキシコの山の中にいた日本人の家に泊まらせて貰ったり、同じ宿で出会った外国人夫婦と一緒に村をまわったり。その時の自分の感覚を楽しんでいます。」
一人旅に挑戦したい方へおすすめの場所
ラオス
「東南アジアはどこも行きやすいですが、安全で食べ物も美味しく人も優しいという点ではラオスです。特にルアンパバーンがオススメです。タイやベトナムを経由し、ダイレクトに行けないこともあってひと手間がある。その分、日本人も少ないのでゆっくり出来ます。
ラオスの人は穏やかでシャイ。どこか日本人に似ている気がします。あまりがっつかず、ナイトマーケットの客引きも静か。察する能力やほっとく精神があって、日本人は旅がしやすいと思います。メジャーでなく、あまり知られていないという面もおすすめで、村上春樹著『ラオスに一体何があるというんですか?』を読み、タイトル通り、ラオスに何があるんだろうと興味を持って行きました。」
自分を癒す旅・新しい旅の仕方
スリランカ
「1週間アーユルヴェーダの施設に入り自分と向き合い、心と身体のデトックスをメインとする旅をしてきました。なるべく観光はせず、毎朝ヨガをして、施設近くのビーチに行ったり、ホテルのプールに行ったりとリラックスしながら、とにかく身体を休めることに重点を置きました。今までの旅とは違い、こういう時間とお金の使い方も最高だな、と新しい発見があり定期的に行きたい場所の一つになりました。」
「アーユルヴェーダ初日のカウンセリングは通訳さんを介し、普段から気になっている身体の症状をドクターに伝え、自分のタイプ(ドーシャ)を脈診してもらいます。その体質から自分に合った食事や施術などを提案され、1週間過ごします。最初の3日くらいはデトックスの時期に入り、身体がだるい感覚になってくるので、無理せず部屋でゴロゴロしながら、ゆっくり過ごしていました。それ以降は、吸収の時間。毎日2時間強のマッサージと施術を受け続け、身体の毒素が抜けていくのを感じました。休み明けには、目が優しくなったね、と色んな人に言われました。」
旅行先の選び方
本や雑誌、番組、旅先で出会った人から
「日々入って来る情報に対して、気になったものをチェックし、行ける日程から合いそうな場所をセレクトしています。自分が選んだ旅先で出会う人たちの情報は興味深く、足を運ぶことが多いです。旅狂いの時は、3ヶ月に1回くらいは行っていましたね。フリーランスなので空いている時間を見つけては、すぐエアーのチケットを探していました。笑
選んだ国を見ると、今はこんな気分なんだと、その時の心理が分かるので面白いです。旅は誰に見せるわけでもなく自分を満たすためにいくもの。世界の情勢を見ながら、これからも自分の直感のまま、行きたい場所に行こうと思っています。」
わたしが旅する理由
「白亜のシェイク・ザイード・グランド・モスクを目的にしたUAEの旅では、イスラム文化に衝撃を受けました。女性はアバヤという黒い衣装に頭をヒジャブで覆い、男性はカンドゥーラという白い衣装。 目元の濃いめのメイクが強調されるニカブという布で顔を隠す。隠されれば隠されるほど色気を感じるんです。白と黒の世界。映画の中に入ったようでした。自分の服に違和感を覚え、身に付けてみたいと思ったほど。
普段触れることのないその国のカルチャーや宗教はとても刺激的で、自分の目で見ることでリアルを知り、温度や湿度がダイレクトに伝わってきます。知らないことに触れ、見たことのない景色を見て、はじめて出会った人々と交流し、笑って泣いて、感情が素直に動く。
普通とは何か、幸せとは何か。自分の感覚がとても狭く凝り固まったものだと気付かされ、旅をすることでフラットになっていくのを感じます。私は今まで、本当に沢山の人に助けてもらいながら旅をしてきました。どんなに美しい景色を見ても、より鮮明にある記憶や思い出は、旅先で出会った人だったりします。私はきっと、まだ知らない沢山の人々と出会い、交流をしたくて、旅に出ているのかも知れません。」
今回の記事と併せ、ヘアメイクの加藤さんの旅アカウント@megtabiも是非チェックしてみてください。