My Ground : optionthe6 / ATSUKO
長い間、東京でファッションに携る仕事をしていたATSUKOさん。メキシコとアメリカに拠点を置きながら、パロサントの輸入、各地でインスピレーションを感じたものを買い付け、今年optionthe6を立ち上げ、運営をされています。
小さな頃から他国の言語に興味があったというATSUKOさんは、初めてカリフォルニアに行った時に『自分には日本よりもっと違う居場所があるかもしれない。』と思った事で、頻繁にアメリカに足を運ぶように。NYでアートスクールに通ったりと海外の生活も豊富。現在は、メキシコシティに滞在中で、メキシコかアメリカに引っ越しを検討中。
今回、ATSUKOさんが各地でハンドピックをしながら、アメリカの7つの州を1ヶ月かけてまわったロードトリップ。そこで出会った人、もの、そのものの背景ついて教えてもらいました。
optionthe6の立ち上げのきっかけ、optionthe6に込めた想いを聞かせてください。
「もともと集団生活が苦手で、働き方や場所に囚われない生活を実現しようと思い、自分が興味を持っている事、やってみたい事を仕事にして、誰かに喜んでもらえて自分自身も成長できる、小さなベースを作りたいとoptionthe6をスタートしました。一人で楽しんでやっていたら、いつのまにか先に進んでたらいいな、と思って始めました。
わたしは小さい頃から、自分の第六感に重きを置いていて、それを大切にしてきました。自分の第六感に響いたものをピックして、それを誰かにシェアする。それで、誰かが喜んでくれたり、楽しんでくれたら嬉しいです。”option”という言葉には、『選択・チョイス』という意味があって、【自分のシックスセンスを頼りに選択していく】という意味を込めてoptionthe6にしました。」
optionthe6で代表的なものは、パロサントですよね。ATSUKOさんがパロサントと出会ったのは約10年前だそうですが、生活の中ではどのように取り入れているのでしょうか。
「アメリカの真っ白な壁の無機質なギャラリーで、パロサントを焚いているとても素敵なおばさまがいて、その方が初めてパロサントの存在を教えてくれました。彼女の事は今でもよく思い出します。
私は気分が落ち込む時や、心がザワザワする時、パロサントにとても助けられています。沈んだ気持ちの時も、焚く事で、その場の空間や気持ちがスイッチのように切り替わる感じが好きです。楽しい気分の時に焚くと、もっと心地良くなったり、気分を変えたい時、何かに取り組む前、創造力を働かせたい時、瞑想する時、掃除をした後。もう私の生活の一部です。家では至る所にパロサントを置いていて、気がつくとパロサントに火をつけています。笑」
optionthe6で輸入しているパロサントは自然倒木されたものだそうですが、自然倒木されたものに比べ、人の手で切り倒されたものは、芳醇な香りがしないという点もとても興味深いお話です。
「パロサントは本来、自然に倒れた木を数年の間、太陽の下で乾燥させ、その後加工するのですが、現在は生産が追いつかず、自然倒木する前に人間が切り倒したものが市場に出回っているという現状を知りました。
私が輸入しているパロサントは、全て自然倒木で、ペルー政府の認証を受けています。この世に永くパロサントを残すために、毎年新しい苗木を植え、持続可能な方法で環境を守り続けている地域で育った100%ナチュラルなものです。適切な収穫を支援することは、先住民の土地と生活を支援する事に繋がっています。」
今回の旅は、テキサス・ヒューストンからスタートし、オースティン、サンアントニオ、マーファ、アリゾナ・フェニックス、ロサンゼルス、ラスベガス、ユタ・ソルトレークシティ、コロラド・デンバー、ニューメキシコ・サンタフェ、ロズウェル、そしてまたテキサスへ。いくつかのアメリカの州を跨いで、大自然に触れながら、各地で多くの人や物との出会いがあったかと思います。今回の旅の中で、心の琴線に触れた出来事があれば教えてください。
「笑われるかもしれないけど、私は人間の存在意義がわからなくなる時が多くあります。この地球の秩序を乱しているのはいつも人間で、いま世界で起きているこの最悪な状況を知る度に、人間は果たしてこの地球に必要な存在なのかなとか、自分も人間なのに人間の存在を卑下して、この先の未来や地球をネガティヴにしか考えられない思考パターンに陥っていました。
だけど、コロラドやユタの壮大な大自然を目の前にした時。私達はこの調和の取れた自然のサイクルに生かされていて、空気や水、空は人間に皆平等にある事。地平線に太陽が沈んでいく瞬間に、空が見たこともないような美しい色を発していたり、宇宙や他の惑星の存在を感じる事ができた時。この自然を見て、こうやって胸がジーンとなったり、美しいと思えるのは、この地球上で人間だけなんだなぁと思った時。全ての存在が、この美しい地球で穏やかに暮らせる日が来る事を、もっとイメージしていこうと思いました。そのぐらい、あの場所で大きくて温かい地球のエネルギーを感じました。
アメリカの田舎の方に行くと、やっぱり白人史上主義の考えがまだ根強く残っていて、冷たさや差別を感じた街もありましたが、どの街に行っても、必ず心の温かい人に出会えた事が心に残っています。」
「サンタフェでは、近隣に住むネイティブアメリカンの人達と触れ合ってみたいという気持ちがありました。サンタフェではナバホ族のアーティスト達が作ったジュエリーを買い付ける事が出来ました。彼らは万事全てを受け入れながら淡々と生きていて、全ての言葉は理解できなかったけど、接しているだけで相手に対する大きな気持ちや慈しみを感じました。
彼らがいなければ、勿論今のアメリカはなくて、この土地にもともと住んでいたのにも関わらず、外から入ってきた人に生活を奪われ、たくさんの命を犠牲にしてきました。だけど、そんな中でどんな風にここまで強く生きてきて、何を思いながら、今どんな暮らしを送っているのか、もっと知りたいと思いました。
ナバホ族は、ネイティブアメリカンの中でも、とてもクリエイティブな民族です。彼らに銀細工を伝授したのはメキシコ人だそうで、それも興味深かったです。彼らが作るジュエリーは全てに意味があって、身につける事でその意味を増幅させ、さらに美しく見せます。」
「彼らのほとんどが、『あなたはどこから来たの?』と尋ねてきて、わたしが日本だというと、みんなが笑顔で ” Oh ! Japan !” と目を輝かせていたのが印象的でした。日本に対して、とても良い印象を持っている事を知れて、すごく嬉しかったです。今回、アメリカのどの街にいっても日本人だと言うと、ほとんどの人が口を揃えて、『いつか必ず日本へ行きたい!』と言っていたのが心に残っています。この先もずっとそう感じてもらえるように、私も何か出来るはずと考えています。」
海外に滞在する方々からよく聞くのは、日本の素晴らしさです。外国で生活をしていると、どんなところに日本の良さを感じますか。
「私はいつも、日本に生まれて、日本で生活できている事はとても幸せな事だと感じるし、日本の文化や食事、自然の美しさや芸術、繊細な表現力の豊かさを超える場所はなかなかないと思っています。至る場所が清潔で美しく、優しさを持ち合わせている人も多い。時間も仕事もきちんとしています。外に出る度に、当たり前の事ではないんだなと感じます。
私は外国にいる時、自分は日本人であるというアイデンティティを強く持っています。それは、わたしもここでは、誰かにとって学びを与えられる存在でいたいと思っているからです。
もちろん日本に対してがっかりする事もたくさんあります。でもいま多くの国の人達は、私たちが想像もつかないような過酷な暮らしを強いられています。その事はいつも心に留めています。」
買い付け商品・ビハインド
「今回久しぶりにアメリカに行って感じたことは、街中にスピリチュアルショップがたくさんできていた事です。そこにはもちろん、パロサントやナチュラルなインセンス、ストーンやタロット、スピリチュアルなアクセサリーやチャームが所狭しと並んでいて、すごく楽しかったし、嬉しかった。これから先、日本にもこういったお店が増えていくと思います。」
「パロサントもそうですが、アクセサリーや小物なども、自分の精神性や内面と繋がるきっかけをくれるものに価値を感じます。意識してる訳ではないんですが、意図を持って作られたものや、作り手の想いがこもっているアイテムを選ぶ事が多くて、その気持ちが、自分の中で響いたものをチョイスしています。どんな高価なブランドものより、私はそういったものに価値を感じるし、選んでくれた人もその背景を知る事で、末長く、大切に使ってもらえると思っています。物が溢れる今の時代にとても必要な気持ちだと思います。」
音楽好きなATSUKOさん。今回の旅はロードトリップということで、車での移動が多かったかと思います。車内や、この旅で特に聴いていた音楽はありますか。
「有名な曲ですが、今回どの街に行っても、Tears for Fearsの”everybody wants to rule the world”がとても良いタイミングで流れてきたり、入ったバーでたまたまバンドがカバーしていたり、『正に、今の世界の心の声なのかも。』と思いました。流れてきたどの瞬間にもこの曲はマッチしていて、さらに好きになりました。
この数ヶ月は、Panama’s Soul Gems のCDがとても良くてよく聴いていました。それと、アメリカの人からみて、日本語ってとても不思議でおもしろく聴こえるみたいで、『曲を作るから日本語も混ぜて歌ってみて。』と言ってくれて、今度生まれて初めてレコーディングする予定です。初めての経験でどうなるかいまからとても楽しみです。」
素敵な出会いのあった今回の旅はいかがでしたか。
「今回のロードトリップは、私の人生の中でも忘れられないJourney になりました。正直、私のこれまでの人生は悲しい事、辛い時も多く、自分を責める事もありました。だけど旅に出ると、自分の中にある運の強さみたいなものを感じるんです。不思議な事が起きて、思いもしない所に辿り着け、その時に必要な答えが不思議な形で目の前に現れてくれる。今回も物事が良い方向に流れていくパワーを感じる事ができました。次は、アメリカの東側をロードトリップする予定です。」
ATSUKOさんは、アメリカとメキシコのどちらかに引っ越しを検討中とのことですが、なぜアメリカとメキシコなのかとても気になりました。そして、それぞれの魅力を知りたいです。
「私は自然も大好きだし、街のスピードや人、そこで生まれるクリエイティビティも好きです。私はどちらか一方だけだと息が詰まるんです。カリフォルニアはその二つが上手く調和していてバランスが良いと感じます。そして、何より気候が自分にとても合っています。
もちろんアメリカは問題だらけの国だと理解しています。でも、アメリカには本当に様々な人種の人々が暮らしていて、考え方、文化、習慣、コミュニケーション、食べ物、音楽、言語、全ての違いを理解していく事で、物事の捉え方や、感覚もどんどん広がっていきます。私はそれが好きです。
もうひとつの選択であるメキシコですが、最初はずっとスペインに興味があったんです。でも、スペインを調べているうちにどんどんメキシコに惹かれていきました。メキシコは街を歩いてるだけで楽しい。建築物や街並みに魅力を感じます。どこまでも散歩できるんです。メキシコは思っていたより英語が通じなくて。だけど、ここは心の温かい人が多いと感じます。みんなが抱いている危険なメキシコの部分は今のところ一度も感じていません。だけど実際にメキシコに長く滞在してみて思った事は、私はアメリカにいるよりメキシコにいる時の方が孤独を感じます。その理由はなんなのか今考えている所です。」
最後に、optionthe6の活動を通して伝えたいこと、今後の活動をお聞かせください。
「選んでくれる人に作り手の意図や気持ちを伝えていきたいと思っています。そのもののストーリーや背景を楽しんで欲しい。自分が価値を見出して選んだものをシェアして、そのものの良さを、相手も感じ取ってくれたらすごく嬉しいし、全く違う感覚で選んでくれても、そこから学ぶことも沢山あります。そして、全てにおいては難しいけど、自分の活動を通して、そこに住む原住民の人達の生活を支援できるサイクルの中で続けていきたいと思っています。そうする事で、自分も頑張れると気付きました。
パロサントや買い付けアイテムは、アメリカでの取扱店舗を少しずつ増やしていく予定です。来年は、自分でも販売してみたいので、LAのダウンタウンで開催されるフリーマーケットで、パロサントと自分の買い付けた物を一緒に並べて出店に参加してみたいと思っています。どんな反応が見れるか今からとても楽しみです。
この先も今やっている事を楽しんで続けているかもしれないし、全く違う事をしているかもしれない。でもその時、自分がしたいなと思った事を自分のペースで続け、自分の人生も自分の心も大切にしたいと思っています。これからも、自分の好きなものを探し続けて、自分がどこに辿り着くのか楽しんでいきたいです。」
記事で紹介した、パロサントやバイイングしたアイテムは今後optionthe6にて、随時アップ予定です。お楽しみに。