初回は『文学』
今日は情報を得るといえば、動画ばかり。
読みものが好きで、文章の素晴らしさやその表現に共感できる方であり、小説や詩、写真集、漫画など、文学・アート全般に精通するヘアサロンLAURUNのディレクター・青柳美恵さん。
まずはじめに青柳さんを思い浮かべ、「初回に是非!」と声を掛けさせて頂きました。とても深く深く語って頂いたので、この企画にぴったりでした。
OTAKU : BOOKS
「小説って読む前に少し緊張するんです。どんな物語に、私は足を踏みこむのかと。一冊読むと、私の頭の中で一本の映画が出来る。」
そんな青柳さんは、普段は動画をほとんど見ないという。
「待ってられないからかな。本や言葉の方が自分のペースで読み進められるから好きです。家で観る映画ですら、本のように『今日はここまで』とパタっと閉じたりします。」
小説に興味を持ったのは美容師という職業柄もあるそうで、
「20歳くらいの時、お店の先輩と一緒にお客さんのカラーを塗っている時に、先輩がお客さんに話していた小説の内容に興味を持ちました。それが綾辻行人でした。それをきっかけに、彼の館シリーズを一気に読み干してしまい、もう読むものがない、という虚無感に駆られました。他の話題からおすすめの本も本屋で漁り、その時は刺激強めのものを求めていて、伊坂幸太郎とか乙一とかハマった作家は全部読むという読み方をしてました。」
その虚無感という表現は、理解できる人も多いのではないでしょうか。終わってしまった空虚感から、まだこっちに別の扉がある、というような事をずっと繰り返して、好きが広がっていく一連の流れ。小説全般について、もう少し詳しくお話を伺うと、
「小説の良さは、背景を自分だけのオリジナルでイメージできるところ。文章を拾って想像する風景。作者の気持ち。情景の表現力。一冊読むと、私の頭の中で一本の映画が出来ます。小説って読む前に少し緊張するんです。どんな物語に私は足を踏みこむのかと。読まなきゃよかったと思うことは、ほとんどないけれども、入り込んで読むので、それなりに傷つくし、泣いたりもする。最近好きになったのは、爪切男。この人の本は初めて心から爆笑しました。初めての感情だったんじゃないかな。『死にたい夜にかぎって』しかまだ読んでませんが、衝撃が強すぎて、早く他の作品も読みたいと思っています。」
アーティストのインタビューを読んだりすると何かと出てくる、寺山修司。青柳さんもきっと好きかな、なんて思って、色々と教えて頂くことが出来ました。
寺山修司(1935-1983年)ほどアナーキーで実験的な活動をした創作者はいなかったのではないでしょうか。10代の頃、青森にあってすでに天才歌人の名をほしいままにし、大学入学のため上京し、詩人谷川俊太郎の薦めでラジオドラマを手掛けます。台詞となった寺山の言葉は時代にのって走りだし輝き、ついに「天井棧敷」の活動へと続いていったのです。
本展のタイトル「ノック」は、1975年4月19日、東京阿佐ヶ谷近郊で行なわれた30時間の市街劇のタイトルです。「あなたの平穏無事とは一体何なのか? 」(寺山修司 朝日新聞 1975年5月7日)と地域住民の玄関の扉を突然ノックする、というものでした。「驚いた人が110番」(東京タイムズ 1975年4月20日)し、警察が駆けつけたという一幕もありました。本展ではこの市街劇「ノック」の真意を映像や多数の未発表資料などによって詳細に検証します。
ワタリウム美術館 寺山修司回顧展(2013)
また、当時「天井棧敷」が実施した夥しい数の海外公演が高く評価された点にもあらためて注目したいと思います。
1983年、寺山修司は47歳という若さで多くの謎を遺しこの世を去りました。寺山はいったい何を目指し、書を捨て街へ出ていったのか。本展ではその謎を現代の視点から探ります。
「寺山修司を知った当時は、私自身、写真集を漁るような毎日の中で当たり前に知りました。その時の私は、グロテスクな表現を見るのが新鮮だった。ラリークラークの影響で、スケーターで写真家のed.templetonを知り、初めて買った写真集の『The Golden Age of Neglest』は、血だらけの写真とか、痛々しい写真ばかりでしたが、本能がかっこいい!!ってなってました。その裏側とか本質が知りたくて、目を背けながらも色々見てました。」
「変なやつ。この一言に過ぎます笑。だから好きな理由もそれなんでしょうね。この回顧展で買った、美輪明宏さんが、寺山修司について一生語ってる本があるんですけど、印象に残ったのは、青森の三沢っていうど 田舎で生まれて、とてつもない恥ずかしがり屋で、訛りを隠すために一生懸命喋るんだけど、ボソボソと吃って聞き取れない。私も山形の田舎で生まれたので、東京に来てからの自分を思い出すようで、どうも気になる。そんな人がこんな表現をするなんて。
少し私の話になりますが、私も似ている部分があって。田舎ではそれなりに生きてきたのですが、東京に出て、表立った表現ができないでいました。根が暗いというか、人に自分を露わに表現出来ないでいた。私の意見、大衆の前で求めないで欲しい、声高らかに喋れないって。(もしかしたらみんなある部分かと思いますが)なので、寺山修司のうちに籠った表現が、静かだけどちゃんと人々の心に響くのが、カッコいいなって思ったんです。
そこからです。好きすぎて、三沢にある寺山修司記念館に日帰りで 1人で行ってきたほど。最高でしたよ。彼の全てを感じられたのは。映像の展示もあったのですが、やっぱり吃ってて笑ってしまいましたね。」
「そっと一冊手に取ろうとすると、あんなにぎっしり並んでた本なのに、すーっと抜ける。まるで本にちゃんと呼吸させてるよう。 」
Books&Things に行った動画を見せて貰った際に、そこに丁寧に置いてある重厚な雰囲気に目を奪われました。
「京都に友達が居て、Kyoto graphieに毎年行ってました。その友達は美容室のオーナーで、そこでギャラリーを併設しているんです。京都での知り合いがとても多い人。Books&Thingsも教えてもらいました。ここの店主さんは、非常に知識豊かで、1聞いたら100答えてくれる。誇張なしで笑。 細い路地の中にある一軒家に、お邪魔しまーすって入って、畳の上に正座。(これは雰囲気でやってしまいます。)
まず、並べられた本をぐるっと一周見渡し、綺麗に陳列された結構な代物に唾を飲みながら、静寂した張り詰めたような空気の心地よさを感じて、そっと一冊手に取ろうとすると、あんなにぎっしり並んでた本なのに、すーっと抜けます。あら不思議。店主の大切な古本なので、正直本を抜く時に傷めたりしないか不安なんですが、なんだろう。本にちゃんと呼吸させてるというか、傷付かないように計算されて並べてあるのか、たまたまなのか。
本を一冊抜いてしまえば、とたんに、実家で本を読んでるような何とも言えぬリラックス感で1ページ1ページ見ていると、そこに店主さん、2 階からやっと降りてきます。私が手に取っている本を見て、間髪入れず丁寧な本の内容の説明をしてくれます。困ってる人がいたら、全部答えますよ。精神ですね、あれは。いや、彼が博識過ぎて、ついつい話したくなってるみたいなところもあります。旅先での本は重くて持ち帰るのが大変なので、悩みますが、私は東松照明の本を持ち帰らせていただきました。」
『本を読まないということは、そのひとが孤独でないという証拠である。』
太宰治 『如是我聞』
常に本が当たり前にある青柳さんは、どんな時に本を手に取るのか、気になって聞いてみました。
「孤独な時です。買って、読まないで放置することもあります。気が向いたら一気に読んでしまったり。お風呂とか、本棚の部屋で読みます。 太宰治が言っていた、『本を読まないということは、そのひとが孤独でないという証拠である』まさしくこれです。私は孤独を感じる時間を大切にしています。」
今後楽しみにしている作者や作品、購入したいと思っている本を紹介して貰うと、
「最初にハマった綾辻行人さんが、それを書いていた時、80年代だったんですよね。なのでもう、おじいちゃんだし、書くのをやめていたと思ってたら、なんと現役で書いている!新作を見たのはもう7年くらい前で。どんなもんかと見たらもう、凄い。すご過ぎて吐き気が止まらなかった。やり続ける人って本当に凄い。なので一度好きになった人の新作はとても楽しみです。」
本に関しては、手が届かないもの以外は、とりあえず手に入れる精神の彼女でも、人生の中でひとつだけ、どうしても引っかかってるものがあるそうです。
「文学が好きな友達は皆、夏目漱石の『こころ』は、ほんっとうに言葉が美しい。言葉で涙が出たほどだ、と口を揃えて言います。『文章ではなくて言葉が美しい?そんなことある?』と思いすぐに買ったのですが、古本で買った為、先人が既に大事なところに線を引いていたんですよ。それが可笑しくて。【嫉妬】とか自分が感じたことまで書いてある。
本の序章はすごくまったりしていて、なかなか話が進まない。言葉の美しさまで辿り着けてなくていつも、まったりのところで本を閉じてしまう。まだその美しさに辿り着けてないということです。まずはそれを熟読したいですね、同じ感動を味わいたい。」
LAURUNでは、ヘアサロンにflotsambooksという本屋を併設しているので、髪を切った新鮮な気持ちで、新たに本に出会い、 購入することも可能だそうです。
「flotsambooksの小林さんが、LAURUNの客層に合うような、主にzineやアート本をセレクトしてくれています。小林さんに出会えたから出来たことで、とても大切な空間です。適当な人なんですが、がっちり人の好みを抑えてきます笑。彼のおかげで、いろんな本や写真家の方との出会いがありました。人と人を繋げることが好きなわけじゃないと思うんだけど、なんか、人が集まってきちゃうんですよね。」
サロンワーク以外でもヘアメイクとしても活躍し、この業界では18年にもなる青柳さん。 以前は海外旅行でも、美術館などによく足を運んでいた印象です。美容師というお仕事にこのようなイメージはダイレクトに活かせる職業。そして、職業柄、興味深いお話も聞けました。
「NY・マンハッタンにあるdash wood booksがオススメです。日本人のmiwaさんという方が居ます。 日本で欲しかったけどネットでも買えなかった本もあったり、miwa さんに聞けば全部説明してくれます。海外に行って、ダイレクトに影響を受けたことってあまりないんですが、そこで買った、可愛い娼婦の日常を追いかけた写真集。その本は、この仕事に活かせているかもしれません。」
「もはやここまで来ると、私には美容師の人生しかなかったです。やはり人との出会いですかね。 面白いのは、今の自分に似合ったお客様が来ます。今はお客様の影響受けまくっていて、素敵な方ばかりです。本当に、鏡です。この仕事の素晴らしさは、完璧がなくて、また新しいチャレンジが毎日出来ること。とても大切にしている仕事です。」