2023-07-19

こりあとりっぷのあれこれ のおはなし

こりあとりっぷのあれこれ のおはなし / 高橋 苑果

アートでも音楽でも、その道を突き抜けてその人の【好き】が全面に出ているのが良いし、だけど考察ができたり、受け取り側に委ねる余白や曖昧さがあるものが好き。

私にとって永遠に魅力的な世界観は、キュートとダークと抜けと儚さのバランス。儚さレベルは、中森明菜とミレー絵画の『ハムレット』オフィーリア。(樹木希林さんのオマージュは最高だった。)そのバランスに惹かれるのは、きっと若い時に見た野田凪さんのラフォーレのシーズン広告に引っ張られているせい。今やスマホですら指一本で変えられるモノクロの世界を、実際にモノを染色して表現した若草物語・四姉妹編。発想はユニークだけど、よくある日常を別の角度で形に出来る才能よ。

その意思を受け継いだ吉田ユニさん。独特な可愛いさの中に毒っ気があって、空想的なその世界観に反してCGのない超現実世界。さらに、視覚効果扱わせたら右に出るものいない、視覚の女王だと思っている。

そんな吉田ユニさんの個展が韓国・ソウルで開催中。今回の旅の目的のひとつでもあり、日本人のアートディレクターが海外でどのように見られているのかも現地で見てみたかった。実際の作品はもちろん、アナログ手法の制作裏の映像や絵コンテが実際に見ることができる充実した内容。

(Alchemy) は、 石坡亭ソウル美術館 9月24日まで開催。

ルブタンもマルジェラもびっくりなシューズシリーズ

日本のモデル・俳優や芸人が被写体となった作品が韓国で展示されているのは新鮮だし、多くの人が興味深く鑑賞していたことに、日本人として嬉しかった。

ソウルでも秋山さん。

『エルピス』のビジュアルも秀逸。
どうでもいい情報ですが、好きな日本人俳優は鈴木亮平さん。
大好きな買い物袋のキティちゃん。
発想力もすごいけど、誰が見てもそれがキティちゃんだと見せることができたのが凄い。完成までにどんなものを詰めたのかな、
鼻やリボンは何でできているのよ、と永遠に妄想できる。
この個展のために制作された”Playing Card”、トランプの部屋では昇天。
トランプは完売。というよりグッズはほぼ完売していました。
先日、在庫補充されていたので、要チェック。
美術館やライブグッズってもっと量増やしておいてと思う笑
制作するにあたって、ありふれた日常の中にふとあるものを
見逃さないんだろうな。素敵。

韓国のほとんどの美術館では撮影OKで、撮影するために近寄っても、友人同士で作品について大きな声で会話していることも、特に注意されない。日本人が周りを配慮し、静かにコソコソ話すあの感じは私たちの文化だし、大事な気持ちだけど、作品についてあーだこーだ話している会場は自然な空間で、とても活気があった。(海外に行くと日本の良さも同時に感じる。)

今回は、韓国語を学び始めてから初めての渡韓。前回韓国に来た時は謎の文字でしかなかったハングルも、空港の案内、街の看板や広告や駅名の文字、それを【読める】ということだけで身近な存在になったみたいでアガった。歩いていている時に目に入る店の名前を無駄に声に出したりした。コロナ禍に始めた完全なる独学なので、自分の実力を試してみたかった。それも旅の目的。

着いて初日、地下鉄での移動中。電車の中にはたくさんの人がいて、何故かその中で「この電車は●●駅に停まりますか?」と70代くらいのお父さんに方言で尋ねられた日本人の私。(なぜ方言かが分かるかというと、それはチョン・ジョングクから来ている。)あ、聴き取れている。ここまでは良いとして、大きな駅だから多分停まるとは思うけど、この電車は快速だし、そして私の目的地より結構先の駅だから確信がない。どうしようとテンパった私の口から出たのは、その返した内容すらダサい、英語だった。自分情けなかった。お父さん、急いでたし、英語わからない感じだったし、自分本位すぎたなと少しだけ落ち込み。あれだけ勉強していたのに、落ち着けばちゃんとお父さんに分かる韓国語で伝えられたかもしれないのに、と。ま、観光客が現地の電車のことを、現地の言葉で答えるのは結構難易度高いよな。どんまい。(いやスマホよスマホを活用せえ、路線図を出せ、あの時の自分にツッコミたい。でも声をかけてくれてありがとう。この経験をありがとう。)

人に何か不意打ちに聞かれた時、自分の要求、大事なことを確認したい時。海外にいる意識はあるし、やっぱり咄嗟に楽で使ってしまうのは英語。そして、パリパリ文化、早口で聴き取りにくい。後で冷静に考えるとこう言えばよかったじゃんの繰り返し。その夜はお風呂に入りながら振り返り、「せっかく来てるんだから、もっと韓国の方となるべく話すように意識せよ!」と心を入れ替え、英語ではなく、韓国語を口に出すように前向き意識に切り替え切り替え。(根本的な話をすると、自分声が結構小さめなんよね。そもそも声の大きさ問題で「ん?」ってされること日本でも多め。笑 腹から声出してこ。)

単語力というよりは日常の中や旅行で使うようなものをフレーズで掴んだらいいし、お店の方やホテルの方のほうが英語も日本語も話せたり、語学が堪能だったりするけど、まずは口に出すこと。日本で外国人観光客が日本語を一生懸命話してくれるのが嬉しいのと一緒。話して伝わると語学はより楽しいのだ。ゆっくり伝えると理解してくれようと笑顔で待ってくれるし、伝わった時にサムズアップしてくれる。バス停(韓国はバス移動が神)で待っていると「どこ行くの?」と日本語で声を掛けてくれる女性も居た。優しい。とにかく優しい。らぶ。

電車の話をすると優先席は空いていても(妊婦専用シートもある)、誰も座らないのは儒教の国ならでは。席を譲るシーンは何度か見た。カップルやご夫婦を見ていると、うそーんレベルでとにかく男性の気遣いがスマート。これは女性に優しく的な話では全くなく、性別関係なく、子供にもお年寄りにも誰にでもさらっとナチュラルに優しく出来るのはかっこいいなと思った。

旅のお供は、ちょうど2回目に読み直していたミシェルちゃんの本。リゾートに行ったりすると綺麗な海を目の前に、平気で殺人事件の本を読んだりする。シティに行く時はなるべくその土地に合ったものを、というオシャレを気取ってみたけど、朝も夜も出歩き過ぎてホテルでは全く読まず。

Japanese Breakfastのミシェル・ザウナー。韓国をルーツに持つアメリカ人。母のガン発覚、闘病生活、介護の末、母を亡くした彼女が綴った回想録『Crying in H Mart(Hマートで泣きながら)』は、今や多くの国で翻訳され、ついに映画化されることになった。昨年の秋に日本語版が出版され、日本での発売を楽しみにしていた私は予約をし、発売日に書店に受け取りに行った。

著:ミシェル・ザウナー /『Hマートで泣きながら』

彼女の【英語】の文章ではなく、翻訳された日本語で読んだので、翻訳家のフィルターを通してしまってはいるが、ミシェルちゃんの文章はとても好きな表現。その人の見たものや感じたものを、誰にでもわかる単語や言い回しを使って、リズム良く、その情景や心情が思い浮かぶ様に伝えてくれている。とても読みやすい。(難しい言い回しをされるとずっとその行を何度も目で追ってしまう。)少し悲しいお話しだけど、読んだ後にとてもあったかい気持ちになれる大好きな本。誰もが知っているわけではないバンドのフロントマンのエッセイが、なぜ世界中でここまでヒットしているのかというと、【親子】【故郷の味】【家庭の味】という心の奥底にあるものを想起させるからでは。

Japanese Breakfastは、The Cranberriesの『Dreams』をよくライブでカバーする。英語で歌っているしそれは確かに『Dreams』なんだけど、ウォン・カーウァイ監督を尊敬する彼女が歌うそれは、私にはFaye・Wongの『夢中人』に聴こえていて、昨年フジロックに出演した際、白い犬のキャミソールを着てギターを弾きながら歌うその後ろに、『恋する惑星』の映像を流した。観客の声にできない歓喜が伝わった時(コロナ禍だったからね)、ミシェルちゃんはとても愛くるしい表情だった。

たっぷり楽しんだ5日間。4年ぶりのソウルはやっぱり勢いがあって、ここ数年の世界を席巻しているエンタメの盛り上がりで、クリエイティブ。やってやるぞ感があって好きだ。韓国から学ぶこといっぱいある、わたし。

帰りの飛行機で隣に座った、これから東京に4日間観光するという韓国人の女の子が声を掛けてくれた。東京のヴィンテージショップの話、韓国ではどんな場所に行ったのか、普段ならインスタグラムのその店のアカウントを見せ、言葉でなくても伝えられる要素がいっぱいの現代だけど、ここは空の中。電波のない所でのコミュニケーションは全て自分の口で言語化しなければいけない。すっごく頭を使ったし、もどかしいこともあったけど、お互いに英語と韓国語を交えて話す時間は、素敵な旅の最後を締めくくってくれた。(若い韓国女性はロングヘアばかりで、なぜショートカットが少ないのか不思議で疑問だったけど、聞き忘れた。)

着陸したら日本では雨が降っていて、雨降ってるねと韓国語で伝えたら、笑顔で喜んでくれた顔が忘れられない。(旅先に着いた途端、天候が良くないと分かるのは気分が下がるはず。その笑顔引き出した私、グッジョブだった。そしてエピックハイ先輩ニムありがとう。)

最寄りの駅に着いたら土砂降りで濡れて帰った思い出もまた。日本の味が恋しくなって、びしょびしょになったまま、よく通う近所のお蕎麦屋さんに入ったら、いつものお母さんが出てきてとてもホッとした。

心を強くしてくれるもの、安定させてくれるもの、お守り

【ライブの思い出】

最近だと2022年のシガーロス、今年6月に開催されたSUGA/Agust Dが特に神がかっていて、あの時の光景や高揚感を忘れることが出来ません。本当に夢の中に連れていかれ、魂抜かれてその後の生活に支障が出たくらいです笑。ここ数年、病気の期間やコロナ禍で楽しめなかった分、今年は意識的にたくさんのライブに行っています。チケットを買って、ライブに行くまでのあの時間さえも愛おしいです。その体験が思い出となり、その後の日々の力として変えることが出来る、何年経っても色褪せない記憶。今までに会いに行った全てのアーティストとの思い出が、私のお守りであり宝物です。

「一生に一度でもいいから会わせてください。」と
神様、ユンギ様にお願いしたのに、もう会いたい。
人の欲深さって怖い。

心を強くしてくれる言葉、安定させてくれる言葉、自分の信念や座右の銘

【サン=テグジュペリ・『星の王子さま』】

これは、読むたびに惹かれる部分や解釈が変わるので、とても不思議。これから先もずっとお世話になるのだろうと思います。10代で最初に読んだ時よりも、今の方がスーっと入ってきて、自分の節目節目に本棚に手が伸びて読む。大人になった今読んでみて欲しいです。

最近また本を読む機会が増え、やっぱり活字を読むっていいなと思いました。私も動画ばかりですが、文章から場面や絵を想像し、頭がスッキリする感覚はとても大事。

そして、私にとってこのマガジンで出会うゲストの方。その方々からの言葉は本当にためになります。インタビューをする時、アンケートが戻ってくる時、いち早くそれを感じる事ができる瞬間が楽しみです。どうしたら伝わるかな、と試行錯誤してみたり、うまくできなくて放置する時間も大事。

今回のゲストの方もとても共感することも多くて、参加して頂いて感謝です。読んでくれて楽しみにしてくれる人がいることもありがたいです。最近は「寝る前に読むと良い眠りが出来る」とか、「心の栄養」、友人にも「(私と)話すと楽になる」、と言われることが続いて、私としては、はて?な感じなのだけど、言われたことは素直にありがとうと受け入れて、自分では分からない、他の人から見る良いところはその部分は大事に持っておこう(このマガジンは決して私の力だけではない)と思います。伝える力みたいなものはもっと伸ばしていきたい。

Issue8も有難うございました。

Text & Edit & Artwork : Sonoka Takahashi

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