クレイアートは独学、独自の世界観を表現
「誰かに教えてもらうということはなく、自分の好きなようにやってきました。手先は特別器用ではなく、実は絵も上手に描けないんです。でも、何かを作るのは好きで、小さい頃はビーズ遊びをしたり、手編みで編み物をしたり、生花を習ったりしていました。遊びや経験が今の制作に活かせているのかもしれません。」
Youtube – Clay Station
【制作背景】
- First of all
- Groundwork
- Rough Drawing
- Make
色から貰う”ワクワク”
この制作背景のYoutube動画を観て、気になったこと。それは、クレイに色を混ぜていく工程(Groundwork)を経て、ドローイング(Rough Drawing)していること。色からインスピレーションを得て、クレイのデザインに落とし込んでいる点だった。
「いつも最初からこれを作ろうというのは特になく、出来ていく色から、『この色の組み合わせいいな、この色でこのモチーフ作ってみたら可愛いかも!』と考えていく感じですね。」
HISAMATSUさんのクレイアートの世界で魅了されるのはその色彩。色出しのこだわりや気に掛けていることとは、
「色に関しては一番こだわっている部分なんです。幼い頃から、図工や美術などの課題で作品を作った際に、絵の上手さや技術の高さで褒められることはほぼなくて、全体的な雰囲気や色使いを褒めてもらうことの方が多かったんです。イラストレーターを目指していた大学生の私にとっては、幸か不幸か、クレイアニメを初めて制作した時にも、『あなたの作品の良さは、とにかく色だね!』と言われました。
そうした経験から、自分の色の使い方に着目して、制作するようになりました。作っていく中で、色の組み合わせを考えるのが好きです。その方が楽しい制作物になるし、どんな仕上がりになるのか、未知でワクワクします。」
クリエーションに必要な穏やかなマインド
クレイのデザインでは、特にアニメや映画から発想を得ているようで、その背景のお話をきいて、HISAMATSUさんのクレイアートの世界観に納得した。
「母は海外のアニメーションが好きで、幼い頃はKARTOON NETWORKのアニメばかり観ていました。そのため、大人になった今でもシンプソンズやトイストーリーなど、そういった子供向けの海外アニメが好きです。
特にシンプソンズは、とにかく色味が大好きで、アイデアが浮かばない時は息抜きのように観て、創作意欲をわかせるようにしてます。
あとは、なるべくハッピーな気持ちになるような制作を心掛けていて、それには私自身の穏やかな心はマスト。結構小さなことで心が乱れてしまいがちで、、そうした時にも映画を観ます。落ち着いた気持ちを取り戻したい時は、『YOU CAN COUNT ON ME』や『マイヤーウィッツ家の人々』、『マリッジストーリー』などのヒューマンテイストを。好きな映画は何十回と観れるんです。」
映画のお話と共に、好きなシーンは90年代のカルチャーだと言う。そしてちょっとマニアックな視点も。
「PavementやRadioheadなどの音楽が好きです。あとは以前「WALKMAN IN THE PARK」というウォークマンの展示会に行ったのですが、一つ一つのデザインや色合いが本当に可愛くて。日本の80〜90年代の家電や広告が好きなのかもしれません。」
海外にもよく行かれているHISAMATSUさん。好きなアートミュージアムのお話の中で、なんだか分かるかも、と、きっと自分自身にもあったかもしれないという心情も。
「NYはとにかく忙しなくて賑やか。ここにいれば自分が主人公になった気分になれそう、と本気で思いましたね笑。その中でも、街の中心部に突如として現れるメトロポリタン美術館。みんなが入り口前の階段に座って、ランチを食べたり、休憩したり、お話ししたり。
私だけかもしれないですが、日本で美術館に行くとき、少し緊張してしまうんです。
今日は美術館に行こう!と決めて行くからなのか、雰囲気からなるものなのかわかりません。でも、アメリカの美術館の場合は少し違ったんです。それぞれが思い思い、好きなように過ごしていて、美術館の中を散歩している感覚でアートを楽しめていて、あの感覚がとても居心地が良かったのを覚えています。これもまた素敵な文化だなと思いました。」
クルエルティフリー
在学中にミネラルコスメブランドでPRアシスタントのアルバイトをしていた経験から、クルエルティフリー(生き物にとって残虐性のない製品であること。製造開発の過程で動物実験していないこと。)を意識しているHISAMATSUさん。Bayukでもコスメの楽しさと共に、クルエルティフリーであることを調べてから購入する、ということを発信している。
「クルエルティフリーに関しては、以前から興味はあったのですが、あまりにも大きな問題であることや、発信していくことの怖さから、どのように関われば良いのか分からずにいました。行動に起こすことが大切なのは分かっていても、取っ掛かりが見つからない。ですが、生産過程や品質も含めて、クリーンな製品を使用することが、まず自分の肌や健康を守ること、そしてその選択が環境や動物の安全にもつながっていくことを知り、こうした関わり方があったのかと感じました。
ミネラルコスメやクルエルティーフリーの製品は、安価では手に入らないことが多いように感じますが、それもクリーンな生産過程や品質があるから。
このような経験からコスメ選びに関しては、なるべく肌に負担がないものを選ぶようにしています。かつて、私自身がクルエルティフリーに関して、少し距離をとってしまっていたからこそ、こうした良い連鎖反応があることをもっと発信していきたいです。」
原動力とアートセラピー
HISAMATSUさんのクレイアートは沢山の工程を経て完成されるアニメーションも制作される。
その原動力については、何にでも無我夢中になれ、時間を忘れるくらい没頭できた、あの頃の気持ちを思い出させてくれるようなお話だった。
「大学では【ユースメンタルヘルスと芸術分野の関わり】について研究をし、卒業制作も『粘土が作る明るい未来』というテーマで行いました。もともと自分自身、メンタルが強いとは言えず、感情のコントロールも上手くできない。そんな時にアートセラピーというものと出会って興味を持ちました。
アートセラピーとは、絵画・粘土細工・写真・俳句などを利用し、言葉では表現しにくい情緒や願望を自分の好きな方法を通して表現すること。それにより心理的な浄化(カタルシス)や自己回復へとつなげる療法なのですが、ある時から、自分がおこなっているクレイアートもこれに当てはまるのではないか、と感じるようになりました。
クレイには、一時的に子供に戻った感覚になる【退行】という性質があるらしく、確かに私も粘土に触っていると心が落ち着き、幼い頃のように純粋に集中して楽しめることがよくあるんです。原動力として考えてみると、クレイが好きというのはもちろん根底にあるのですが、自分の心と向き合うひとつの手段として、行なっているのかもしれません。
伝えたいこと
「クレイアートは、楽しさをそのまま伝えられることです。私のクレイアートに対して周りの方から、『どこか完成されていない可愛さがある、見ていて懐かしい気持ちになる。』と言われることがあります。以前は、どうしたらもっと洗練された制作になるのか、と悩んでいた時期もあったのですが、今はもしかしてこれは身近に感じてもらえているということではないか?と思ったりして。
実際にクレイアートを教える講師として仕事をしたり、プライベートで友達と一緒に制作したりする中で思ったのが、「上手い下手」はあまり考えなくても良いということです。
『私、絵が上手くなくて、、』と思われる方がよくいるのですが、粘土はあまり関係ないかもしれません。思うままに手を動かして作ったものが、綺麗なマーブル柄になったり、シュールな可愛さになったり。
クレイアートはもっとシンプルに楽しい!という気持ちがそのまま作品に現れるものだと思っています。絵に自信がなくても、アートに触れられたり、自分の世界を表現でき、年齢問わず楽しめる。私のクレイアートを見て、『楽しそう』とか『自分もやってみようかな』と思ってくれる方がいれば、とても嬉しいです。そんなクレイアートの魅力をもっと発信していきたいです。」