2022-06-15

-Vacancy Project- / 細野まさみ

2016年、NY・East Villageにて、ジェンダーニュートラルサロン・Vacancy Projectをオープンさせたディレクター・美容師である細野まさみさん。

オープンしてから数ヶ月後にあった大統領選がきっかけで、社会的に何かできることがないか、と考えるきっかけになった、という。自身もクィアである細野さんは、その行動の一つに、ジェンダーによってカット料金を分けるというのをやめた。2016年、当時は珍しいことだった。

( ※ 現在、NY州ではジェンダーによってカット料金を分けることを条例で禁止している。)

「当時はジェンダーニュートラルをコンセプトに掲げることで、少しでも多くのクィアの人たちが安心して自分に似合うヘアを身に纏えることを目指していました。多くのサロンで、【男らしく】【女らしく】【異性にモテる】などを押し付けられた経験をしたお客様がうちに来ることが多いです。」

自由な思想と表現を持った人々が集まっていたAndy Warholのファクトリーが、Vacancy Projectのアイコン。Vacancy=空室、誰でも歓迎するという意味を持つ。https://www.vacancy-project.com

NYに来て12年目を迎えた細野さん。NYの街の人々やサロンのお客様の多くは、トレンドや人の真似、他人の視線よりも、その方が自分らしくいられるスタイルを追求しながら、ファッション、政治、性的指向などの意識が自分の内側に向いている方が多いそう。ジェンダーニュートラルサロンと発信していることで、意識していることはというと、

「当たり前のことですが、一人一人のアイデンティティとジェンダーを、自分の目線でジャッジせず、相手を尊敬して言葉を選び、コミュニケーションを取るようにしています。」

最近増えてきたというミディアムカットのオーダーは、90年代に日本で活躍していた俳優やミュージシャンを参考にすることも多いそう。細野さんにとって、フェイウォンはアイコン的存在。

SNS上でのプロフィールの代名詞。さまざまな方が、自分が人からどう呼ばれたいか、と明確に意思を示している。日本でもレインボーフラッグのシールを店先に掲げているショップがあり、LGBTQ+の当事者ではないが、「私もあなた方の味方です、仲間です」という意味を持つ【Ally(アライ)】、敬意と尊重の気持ちをもって、セクシャルマイノリティを支援する意思表示が一部では浸透している。しかし、「知らない」ことによる無意識的な偏見、差別、それぞれの価値観。今後日本ではどのようになっていって欲しいかと伺うと、

「日本では、法律で守られていないことが多いので、一人一人が周りにいる人に対して、マインドフルになってあげることが大事だと思います。声を上げることはできますが、まずは当事者の人への思いやりかなと思います。」

細野さんおすすめ・ジェンダーに関する本

それを感じているのは私だけじゃない こんにちは未来 ジェンダー編

著者 佐久間裕美子 + 若林恵

2020年以降のNYは、大統領選挙や黒人・アジアンヘイト、コロナ、ロックダウン、現在でも人種差別は多く、治安は更に悪化し、社会問題は山積みだという。

「現在のニューヨーク市長が元警察官ということもあり、コロナによってさらに貧困層がより貧しくなり、富裕層がもっと豊かになりました。それなのに貧困層のメンタルヘルスはサポートされず、職を失った人やホームレスの人が犯罪を犯す、という悪循環に繋がっています。そのような人は、有色人種が多く、更に人種差別は過激になっています。物価の高騰により家賃が何倍にも上がり、家を無くす人も多く、治安が悪いのはそのせいだと思います。」

Vacancy Projectは、ヘアサロンでありながら、カルチャーを発信し、クリエイティブな人々が集まる【空間】=Vacancyであり、それは社会貢献のためのProjectでもある。細野さんは積極的にボランティアやプロテストにも参加している。

「主にコロナ禍で生活に困っている人たちに食べ物を届ける活動や、サロンの売り上げの一部を団体に寄付しています。プロテストは、今は主にアジア人差別反対、アボーションライト(中絶の権利)を掲げているプロテストに参加してます。ただの一美容師でいるだけでなく、自分がサポートしたいと思える団体でのボランティアやプロテストに参加して、自分の意見をちゃんと発信できる一人の人として心掛けています。」

NYで知り合ったというヘアメイクアップアーティストである友人と、新しく始めたポッドキャスト。

「お互いにアメリカ歴が長く、日本とのカルチャーギャップを話すうちに、『これを発信したら、日々同じように感じている人々の心に、少しでも響くのかな。』と思い始めました。日本国内でも、世界でも色んな問題が毎日起きているので、常に変わる社会問題をタイムリーに取り上げられればと思っています。」

そのトピックは様々で、メンタルヘルスや自分自身の愛し方についても発信されている。心と身体の健康で大事なものは、【食】であり、細野さんは、「人としても、美容師としても一流になる為には、身体にも心にも栄養になるものを食べる。」という考えを持ち、最も食事を大切にしている。

「自分に厳しくするのと自分を雑に扱うのは別なので、自分を労ってあげないことは、とても悲しいことだと思います。料理をするのが好きなので、自分にも、他人にも同じように美味しいものを食べて幸せになって欲しいですね!」

細野さんは、大切なパートナーと犬のBENTOとの3人暮らし。よく一緒にセントラルパークや、ブルックリンブリッジパークに散歩に行くことがあるそう。BANTOとは、細野さんがブロンクスで保護をしたのが出会い。BENTOという名前の由来は、私達にとても馴染みのある、あの言葉。

「ブロンクスの森の中で、箱に入れられて捨てられていたので、箱→弁当箱→BENTOとなりました。」

そして今月、イラストレーターで、陶器アーティストとしても活躍されているパートナーとご結婚された細野さん。お二人は将来的に、自分達との間にお子さんもお考えだとか。お子さんを希望する方にとって、色んな方法や選択肢があるのも、アメリカの良さ。

「アーティストとして、とても才能とセンスがあるのに鼻にかけず、努力家なところに惹かれました。彼女はイギリス人なのですが、日本人と国柄が似ているところがあって、そこも相性がいいと思います。子供は数年以内に持てたら良いなとは思っています。」

Comment&Photo : Masami Hosono

Edit&Text&Artwork:Sonoka Takahashi

Issue5の公開後、Bayukのインスタグラムでは、記事に載せれなかった、それぞれの【好き】も更新していきます。その他、夏らしい企画も更新予定ですので、お楽しみに。初めましての方は是非フォローをお願い致します。
Related Posts