昨年、スパイスブランド・HERRONを立ち上げた佐藤さんご一家。化学調味料も添加物も不使用。子供もヴィーガンの方もみんなで食卓を囲める商品。製造を主に担当する圭祐さんは、スパイスの知識や現地の食習慣、言葉について学びながら、ネパール人のシェフとスパイスを使ったお料理を提供するレストランに勤務しています。HERRON立ち上げのきっかけや旅のこと、軽井沢での生活や保護猫の活動のことを伺いました。
My Ground : HERRON
莉紗さんの働くヴィーガンレストラン。そのレストランで提供するチャイ、ジンジャードリンクをお二人が作ることになり、それがとても好評で商品化することになったそうですね。HERRONはまさに家族一丸となって作っているブランドですね。
「元々は家族でいる時間を増やすために、自宅開業を視野に入れて、決行した移住でした。 夫は料理が得意で職人気質。人に何かを伝えることや食べること、事務作業が好きな私が、夫婦一緒にビジネスをやるとなったら、自然と決まっていったのは、食に関することでした。」
和食やフレンチが目立って多い軽井沢は、エスニック料理屋はほぼないそうで、そこに住んでいる人にとっては大変重要なことですよね。そんなことも大きく影響しているのですか。
「最近は首都圏からの移住者も増えてます。そうした感度が高く、舌の肥えた移住者の方や、食いしんぼうな私達にとってもこれはかなり由々しき事態。そういった背景もあり、移住者が多い職場の方達にも背中を押してもらいました。」
お二人は大学の同級生であり、古くからの友人とのことですが、共通の趣味が多かったとのことです。その趣味の一つは旅、そして食。まずは旅について聞かせてください。お二人で行った今までで忘れられない旅はありますか。
「世界遺産に登録されているヨルダン、砂漠・キャンプワディラム。もとは遊牧民ベドウィン族の居住エリアです。彼らがガイドするツアーやキャンプなどがあり、当時まだ友人だった夫と行きました。彼らとテントで話した夜の時間が、今でも忘れられません。」
そこではどんなお話をしたのですか。
「休みの日にしていることを聞くと、『山羊を狩る。都会の人達はクラブに行っているけど、僕は興味なくて。』、ガイドをしてくれる時も、『以前、ここには住んでいた家があったんだ。』と話してたり。 観光地でも保護区でも、必ず誰かの暮らしや日常があるんだ、と改めて思い知らされました。風が吹くことで少しずつ変化する砂漠の景色。それでも渓谷の形や洞窟などを目印に、観光客を乗せたjeepで住み慣れた砂の大地を駆け抜けていく。なんて逞しいんだろう、と。また、ああいう旅がしたいです。」
共に多くの旅をしてきたお二人が作るスパイスブランド・HERRON。チャイ、コーディアル、チャツネ。インドの街をイメージして作られた商品もあるとお聞きしました。
「Old Delhi Masala Chaiは、屋台や小さい家々がひしめき合っている旧市街・オールドデリーで、地元のおっちゃんたちが無表情で歌うように何かをしゃべりながら、露店で淹れているチャイを再現しています。しかし、日本で言う味噌汁のように、同じ地域でも家ごとに異なるチャイの味。日常的に飲む古き良き庶民の味に仕上げていますので、Old Delhi Masala Chaiは、幅広い方におすすめです。 」
「Gurgaon Masala Chaiは、新興都市・グルガオンをイメージしています。近頃はグルグラムと読み方が変わったそうですが、HERRONではあえて昔のままの読み方にしています。空港から近く、デリーにオフィスを構えていた外資系企業の多くが老朽化などを機にこの地に移転し、急速に発展したビジネス街。日本人も多く居住するエリアです。ガラス張りのショッピングモールや日本の大企業も並ぶ、混沌としたインドの真逆を行くような土地の熱気やパワーを、スパイスのブレンドに落とし込みました。スパイスのパンチが効く濃厚な口当たりです。」
「無農薬のレッドチリを使用したSpicy Ginger Cordialは、特定の街ではなく、深夜の静かな部屋をイメージしています。仕事を終えて机を片付けているPM22:00、遅い夜ご飯のあとにもうひと踏ん張りのAM24:00、夜泣きの我が子をあやしながらふと窓を見たAM2:30。世界中でいろんな夜を迎えてる大人たちに飲んでほしいです。」
万能調味料とされているチャツネですが、どんな料理に合わせるのがおすすめですか。
「季節に沿った果物や野菜をベースにチャツネを作っていますが、今展開しているものはcassis&persimmon(カシス&柿)とapple&prune(りんご&プルーン)の2種。焼きそばにひとさじ足したり、餃子の薬味にしたり。個人的には煮卵に乗せるのがおすすめです。チャツネは旬の果物や野菜、季節の料理に合わせやすいブレンドで、随時展開していく予定です。」
cassis&persimmon
ジャム要素の強い甘めの味とブラックペッパーのパンチの効いた奥行きのある味わい。クッキーやチーズケーキ、チョコケーキに添えたり、サンドイッチに塗ったり、ピザに付けたりとトッピングに万能。
apple&prune
フルーツベースで甘みの中に、ニンニクが効いているapple&prune。隠し味としてだけでなく、食事に変化と彩りを加えたい時におすすめ。
綺麗な色合いで目を引くラベルは雨禾ちゃんが描いたものなんですね。そしてデザイン料もお支払いしているとか。計算されていない、狙いがない、ナチュラルが生み出した作品。彼女の作品の魅力はどんなところですか。
「今ラベルで使用しているものは、全て彼女が絵の具を使い始めた2歳頃のものです。慣れ親しんだクレヨンではなく、柔らかい筆で、色を混ぜたり、水を含ませたりできる絵の具を与えてみたらどうなるか、ウカ以上にワクワクしながら眺めていると、どんどん重ねて塗ってくんです。パレットで色を混ぜ合わせて、紙に塗って、また新しく色を作って、同じ箇所に塗り重ねていく。」
「綺麗な青緑が真っ黒に潰されていく時には、大人である私の視点では、『あっ、、、』と惜しくなってしまうんですけど、乾いて見てみると、奥底に沈んだ色がほんのり浮かび上がってくる。乾かす途中も、塗り重ねすぎて紙の上を絵の具が流れていく、その流れの中にも何色もの色がぐにゃぐにゃしていて、 好きな色もまだ定まっていなかった頃のフラットな状態の彼女が、純粋に色そのものの世界を楽しんでいる、あの時期にしか生み出せないところが面白い。ふやけて穴が空いたり破けてしまったものもありますが、そんなものも全て宝物です。」
岩手県出身の圭祐さんと、東京都出身の莉紗さん。軽井沢への移住は、家族の時間を増やすためとお聞きしましたが、東京を離れ、軽井沢に引っ越した経緯を教えてください。
「田舎の心地よさも厳しさも、都会の刺激も閉塞感も、夫婦それぞれで意見や思いを出し合って、私達にとって理想の子育て環境を探していました。紆余曲折しながら、3年くらい土地探しをしていましたが、ふらっと訪れた夏の軽井沢で移住を決め、翌年の春には引っ越していました。長く住んだ東京を愛する気持ちは変わりませんが、帰る気持ちは全く起きないほどこの町が気に入っています。」
軽井沢はどんな魅力のある場所ですか。「晴れときどき豪雨」なんて表現されていましたが、それと対照的に、移住して感じた軽井沢の厳しさはありますか。
「標高1000mある高地なので、夏場は特に空模様がころころ変わります。夏場は夕立ちは常。雨上がりには、大きな虹もよく架かります。冬は、ピンとはりつめた氷点下の空気が澄んで圧巻の星空。樹氷も綺麗です。 鳥や動物もたくさんいて、日本国内の陸上哺乳類の全種が軽井沢に生息しているそうです。キツツキが家の壁を突く音や、夜中に聴こえてくる狐の鳴き声、朝はリスがデッキに遊びに来ます。日々を暮らしながら、常に自然の中で生きている、という充足感があります。 特別何かをせずとも、365日すべてが美しい。こんなところで幼少期を過ごしていく娘が羨ましいくらいです。」
「夏に移住を決めたということもあり、地元の方にはかなり冬の厳しさを説かれました。ただ夫が東北の岩手県出身で寒冷地スキルがありました。『凍結による水道管破裂』(冬あるある)は、今のところ免れています。ただ妻の私は、移住を機に運転免許を取得した新米ドライバーなので、路面凍結が本当に怖いです。」
以前、莉紗さんは保護シェルターで働いていた経歴があるんですよね。今は軽井沢で、保護猫のアビちゃん・アブちゃんと一緒に暮らしている。保護猫ちゃんとの暮らしはいかがでしょうか。
「その保護シェルターは、猫を専門にレスキューしているNPO団体が運営しており、私は100頭以上の猫を毎日お世話していました。いろんな経緯でシェルターに来た子が多いので、脚が1本なかったり、眼を失っていたりとハンディを抱えた猫もたくさんいました。 でもその猫たちは、脚が少ない分、他の脚はムキムキで他の誰よりも俊足。失った視力のかわりに鍛えられた嗅覚や聴覚で、ネズミのおもちゃを素早く捕まえて遊んでいました。動物の力って本当に凄い。」
「うちの猫たちは、知り合いが保護した野良猫ファミリーの仔猫を譲り受けました。迎える日までに交通事故で亡くなってしまった兄弟猫もいたとのことで、外で暮らす過酷さを実感しました。保護とはいえ、母猫から離してしまった形なので、娘と同様に心からの愛情を尽くして、育てていくと決めてます。最近ふたりともデレデレに甘えて大好きアピールをしてくれるのがとても幸せです。」
小諸市にある動物保護施設・ハローアニマル。動物にとっても、理想的な施設ですね。そして、莉紗さんは将来的にはシェルターの運営もお考えだとか。
「県が運営しており、犬猫の譲渡のほかにも学生を対象にした職場体験、福祉施設などでのアニマルセラピー事業など展開されています。動物がたくさんいる環境はどうしても臭いや衛生面の課題がついてまわりますが、ここは本当に綺麗。土地の広さが生かされた設計で、犬猫鳥うさぎなどいますが程よく動物同士の距離も取られています。 高台にあるので外の眺めも爽快。庭では山羊が長閑に草を食んでいます。アビとアブを迎えてから行く機会が減ってしまったのですが、妊娠していた山羊が無事に出産を終えられたのか気になっています。」
「動物福祉は、妻の私、個人のライフワークのようなものなので、ごく小規模になるかと思いますが、いつか叶えたいです。保護シェルターに勤務していた頃、猫のメンタルケアを担当していました。飼い主からの放棄・虐待のために、人間への警戒心と恐怖心が過剰になってしまった子を、時間をかけてスキンシップをしながら、心をほぐしていく作業です。基本的に保護シェルターの多くは『一番大事な命を助ける場』です。病院と少し似ていて、食事の準備や健康管理、看病、清掃、事務作業で1日が終わります。いつも忙しくて、どうしてもまとまった時間をかけたケアは難しい。さらに、譲渡に結びやすいのは、健康で人懐っこい子猫。でも本当は、怖がりな猫ほど一度心を開いたら甘えん坊。爪を立てて阿修羅の如くシャーシャー言ってる子が、本当は鈴のような可愛い鳴き声だったりするんです。そういう『もらわれにくい子』の重たい鎧を少しずつ脱がせて、自然な姿にしてあげたい。譲渡に繋がればいいし、それ以外にその子にとってベターな方法があればそれでもいい。うちにいたければ、いてもいい。」
「参考にしたいのは、ハワイのラナイ島にある猫の保護施設『ラナイキャットサンクチュアリ』、飼育スペースのほぼ全てが外の広大なお庭という温暖なハワイならではの設計で、土だらけになって芝生を走ったり木陰で微睡む猫達はとても朗らかで。600頭以上の猫がいるようなのですが、あまりに広い敷地のためにテリトリーを争うような様子もなく平和そのもの。軽井沢も夏は猫にもちょうど良い気温なので、うまく取り入れていけたらと考えています。」
今後のHERRONについて伺います。軽井沢での森のお家、今後はお店も併設していくのですか。新商品も出る予定とのことですね。
「はい、その予定です。もともと古い別荘で、玄関の扉を開けたらすぐリビングという不思議な間取りでした。 象徴的で眺め良い出窓もあり、内覧の時点でこの部屋をお店にしようと旦那とコソコソ話してました。そして、新しいチャイの試作を進めています。今使っているアッサム以外の茶葉も試しているので、かなりの種類になりそうですが、雨禾が寝た後の少ない時間で2人で頑張っています。その他には、チャツネ以外にも子供のいるお家でも使いやすいスパイスを使った調味料や受注生産でのマリネ、そしてグラノーラなど幅広く企画しています。」
旅をしながら感じてきた食への想い。スパイスのプロダクツブランドとして、お二人、そしてご家族にとっても、食というものは、日々の中でとても大切なことだと思います。
「食文化って、その国や地域の暮らしが表れますよね。現地の市場へ行くと、気候、経済、地理、いろんな事情が読み取れる。その中でも茶葉とかスパイスの農産物って階級や産地が様々で本当に面白い。HERRONは、将来的には飲食店様への卸を軸にした“スパイス屋”を目指していますが、一般カスタマーの方へ向けたプロダクトは、カフェのような斬新なアレンジを楽しむ洗練されたラインナップではなく、現地の風土や生活、湿度を感じられるような要素を詰め込んだブランドにしたいと思っています。」
「昔から旅行が大好きで、海外を旅するにあたって食は絶対に切り離せないものです。食を知ることで、その国を知れるという側面もあります。以前は、食は文化を代弁している点で、知的興味の対象でしたが、娘が生まれてからは、今までの食の考え方に『コミュニケーション』が肉付けされました。娘と料理を一緒に作ってみたり、メニューに合う音楽を一緒に考えてみたり、どのお皿に盛ると美味しそうか一緒に選んでみたり、娘との時間の中で、食を通じて、お互いの考え方や感覚に深く触れることができ、食の持つ力を今まさに再認識しているところなんです。」
HERRON
昨年ローンチした、スパイス屋さんHERRON。
旅をしてきた夫婦が軽井沢に移住し、多くの国を旅して見てきた街並みや文化を詰め込んだチャイ、チャツネの他、新商品も展開予定。
森のお家での店舗営業も計画中。
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Issue4 “Spring To Mind”
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