2021-10-20

My Ground : iro / Ruriko Ng 

京都に生まれ育ち、幼少期から慣れ親しんだ場所に、vintage kimono shop iroを構えるショップオーナーのイング瑠里子さん。

古き良きものを大切にする姿勢は、iroだけでなく、生活に対する意識からも感じ取れます。日本の四季や旬を感じながら、本質を追求し、それを暮らしの中に取り込み、和を伝承していく。

本来の姿で暮らすことの気付きがきっとあると思います。

My Ground : iro / Ruriko  Ng 

 
イングさんが生まれ育った京都についてお聞きしたいのですが、観光するだけでは見えていない京都はどんな街ですか。 

「京都は四季を感じる事が出来て、とても好きな街です。春と秋が人気の京都ですが、私のお勧めは夏。街中がお祭りや川床の準備に入り、夏の暑さを楽しさに変える季節。 

私には、毎年必ず袖を通す浴衣があります。その浴衣の準備を進める6月になると、『もうすぐ夏がやってくる』と、当たり前のようにやってくる四季に感謝をし、夏支度を始めます。そういった季節の移ろいを常に感じれるのが魅力の1つです。 

そして、もう1つ。小さな路地に入ると素敵なお店に出逢える。そんな【私のお気に入り】を探す楽しさも、京都の魅力の1つではないかと思います。」 

2019年、ギャラリーからショップに生まれ変わったiro。そのきっかけや当時の想いなど、そして、なぜヴィンテージの着物のSHOPにしようと思ったのでしょうか。

「ギャラリーでは、イベントの企画などをメインでしていましたが、私自身、日常的に着物を着るようになり、気軽に相談したり購入できるお店がなく困っていました。 そこで『私と同じように困っている方がいるかも。それだったら作ろう!』と、すぐにギャラリーからショップに変える準備に入りました。」

「iroという名前は、みんなの持つそれぞれのイロ、その色んなイロが重なる風景をこの場所で見たい、たくさんある着物の中からお気に入りのイロを見つけてほしい、そんな思いもあり、名付けました。

ヴィンテージにこだわった理由は、古き物には形跡や知恵がしっかりと残り、今にはない色彩や色合わせ、そしてストーリーがそこには込められていると感じるから。捨てるという事が簡単になった今の時代で、捨てずにもう一度光を与え、次の方へとバトンを渡したい、そう思ったからです。」 

着物との出会いや魅力を教えてください。 

「2017年から日常的に着物を着るようになりましたが、でも最初は失敗続きで…。着方や色合わせに失敗したり、出先で帯が緩んできたり…。祖母が茶道と華道の先生をしていた為、小さい頃から着姿は見てきましたが、でもどうしても祖母のように格好良くは着れなくて。

繰り返し着るうちに気付いたのは、完璧でなくていいということ。洋服とは違って体の曲線に合わせて裁断はせず、ほぼ全て直線で裁断する着物。その為それを着るとなると、毎日同じように着れるとは限らない。私はその日々の違いを楽しいと感じ、女性の身体も日々変化するので、その変化に気付いてあげることも着物の楽しさだと学びました。 

そして1番重要としている事は、季節の色や、その日の気持ち。その自分にとっての日常をコーディネートのどこかにいれる。 四季やその日の想いを表現出来るのも、私にとっての着物の魅力です。」 

着物や浴衣だけだとシーンは限られてきますが、洋服とのコーディネート、帽子、インド綿との組み合わせ。日常に落とし込んで、それらを常に提案していますよね。Anemollisにて夏にやっていたポップアップ、浴衣とLa Maison de Lyllisとの帽子の着物の組み合わせってなんか新鮮ですよね。 普段、私みたいに着る機会がない方に向けて、アイテムだったり、コーディネートだったり、どこから取り入れるのがおすすめでしょうか? 

「着物=格が高い、着れない。着ていく場所がない。着物自体の印象はいいけど、実際はマイナスなイメージが多いように感じています。 

それは触れる機会が少ないから?例えば、普段使う物が古い着物生地だったら?身に纏う物が着物の羽織だったら? 

その、【日常に馴染む】という事を少しずつご提案出来ればと思っています。ヴィンテージやアンティークの着物を解き、1枚の布に戻す。そこから、original wrap skirtを作ったり、シュシュを作ったり。そうしてまずは着物に触れる機会を増やすこと。 

それともう一つは、お家に着物があるか聞いてみる。おばあちゃんが着ていたもの、お母さんが着ていたもの。実はすぐ側に素敵な1着が眠っているかもしれません。そうやって意識を向けてみる事も、着物と身近になる1つの方法かもしれません。」 

来店される方の中で、外国人のお客様も多かった印象です。 以前おっしゃっていた「旅をしたときの記憶に残ってほしい」という考えも、とても共感します。お客様との接客で、心掛けていることはありますか。 

「私が海外へ旅行した時に思い出すのは、その土地の色や香り。そして一緒に時間を共有した人との時間です。お店に来てくれる海外のお客様には、日本のカルチャーや着物に興味を持ってくれた事に感謝の気持ちを伝えること。これは必ずしています。

折り紙で作った鶴を皆さんにお渡ししたり、お礼のメッセージカードをこっそりと、ショッピングバッグに入れたり。ご旅行を終えられた後も、日本を思い出してくれると嬉しい。そんな小さなサプライズです。」 

キャンピングカーを持つことは長年の夢だったのでしょうか。これからの旅と、着物のPOP UPのこと、教えて頂ける範囲でどんな構想があるのですか。 

「キャンピングカーを持つことは私の夢でした。その夢の中の1つが、着物を積んで日本中を旅すること。着物の素晴らしさをみなさんに知ってもらい、私自身もその土地の事を教えてもらう。まだまだ知らない日本を同時に知ることができ、お邪魔した土地に私なりの恩返しがしたい。そんな風に思っています。 

そして今後は、キャンピングカーをお店にし、pop up shopをメインにしていきたいなと考えています。移動型にすることで、様々な地域の方々との交流も広がり、アパレルブランドさんや飲食店さんなどとコラボをすることで、着物を身近に感じてもらえる。そんな機会を作りたいなと考えています。 

そして、少しずつ日本での旅を続け、海外への旅も今から計画しています。日本の文化を面白い形で広めていき、着物というツールを色んな角度から楽しんでもらえるといいなと思っています。」 

この夏、キャンピングカーで徳島を旅をしていましたよね。そこでは、どんな出会いや気付きがありましたか。 

「晴れ間が続く8月の下旬。夫婦で8日間徳島を周りました。 

徳島での出来事は一言では言い表せれないけど、何より地元の方々が優しく受け入れてくれるその姿勢に感動し、ゼロウェイストの町、上勝町を訪れた時は、ゴミをゴミとして扱わず最後まで使うこと。そして、必要な方々に繋いでいくその取り組みにとても共感し、私が続けている事との繋がりに、そっと手を差し伸べてくれる感覚になりました。 

私もこのまま続けよう。そう再確認させてもらった場所でもあり、今後移住を考えている街とよく似た、海の香りで溢れた街でした。」 


移住するのですね。どんな場所で、その土地を選んだ理由をお聞かせください。

 
「海の京都、宮津市に移住予定です。海や山、川に囲まれ、京都で育った私でも宮津市はまだ知らないことばかり。 京都市内から車で走ること2時間。そこは皆さんの知る京都のイメージとはまた違った姿が顔を出します。 

海の香りと穏やかな気候。お米や野菜、漁業も盛んで、自給的な暮らしをする方も多く、また絹織物の[ちりめん]でも有名な街です。 

同世代で移住した友人家族や、地元の方々の支えもあり、今も少しずつ移住に向け進んでいますが、私達が移住を決めた理由は、夫婦で暮らしづくりをしたいから。 

自分達でつくり、直し、暮らし、壊れたらまた直す。全ては無理でもまずは自分でやってみる。その本来の暮らしのヒントがそこにはあると思っています。」 

 
自給的な暮らしをSNSでも発信されていますが、食のこと伺いたいです。畑では何か育てているのでしょうか。 

「主人は3年ほど前から京都で畑と田んぼをしていて、私は稲刈りや収穫を手伝っています。何でもそうだと思いますが、循環している。ということを畑仕事で1番学んでいるように感じます。あまり頭でっかちになりすぎず、まずは自分達自身が育てるという事を愉しむこと。自然の中で生活するととてもリラックスした気持ちになり、心も穏やかになります。【暮らしをつくる】これから少しずつ、夫婦で取り組んでいこうと思います。」 

ショップ、ポップアップ、インスタライブも積極的に発信していますよね。不安と楽しみの間で何かを始める時の気持ちはどうでしたか。 

「何かを始める時は不安と楽しさが入り交ざるもの。 お店をスタートさせる時、不思議と不安は全くなかったんです。続けていくのが難しかったら、どこかでバイトすればいいと思っていたし、『やらないよりやった方がいい。』という昔からの性格もあって、考えるより先に行動していました。 

私が大切にしていることは、その時の自分の波に乗ってみる。自分が心を動かされるものには素直でいる。これからも自分のアイデンティティを大切に、日々の小さな愉しみや、すぐ隣りにある幸せを大切に過ごして行きたいです。」 

Comment Text & Photo : Ruriko Ng
Edit & Text : Sonoka Takahashi

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