2021-12-16

OTAKU : FOOD / 小林未那

札幌でカフェのシェフ、個人でオーダメイドのケーキとオードブル、ケータリングの活動をしている小林未那さん。料理を職業にする前は、経理や事務の仕事をしていたそうで、当時は実家暮らしでお米を炊くことしか出来なかった小林さんが、30歳から飲食業を始め、それからその道7年、現在シェフ。ご本人の努力とセンスと才能はもちろんのこと、これはとても夢と希望のあるストーリーかと!30歳から料理の道に進んだきっかけを伺いました。

「自分を表現する何かがあったら良いな、とぼんやりと思っていた時期に、当時付き合っていた彼にご飯を作ったら、『料理が向いてるから仕事にしたら?』と褒められたんです。当時、料理ユニットという食とアートを掛け合わせたような活動をする人達がいることを知り、私もいつかそんなことがしてみたいなって思ったのがきっかけです。」

その後に結成したフードユニットのジュウニが今の原点だとか。

「現在、私以外は札幌を離れてしまったので、その活動はお休み中ですが、料理担当が私を含めて2人、コーヒー担当が1人の女の子3人で活動をしていました。友人を招いて、河原でいろんな具材を用意して作るサンドイッチとコーヒーのパーティーをしたり、1日だけ友人のお店を借りて、1つの国をテーマにしたカフェを開き、イベントやケータリングを行っていました。」

今はSUUという生活雑貨店の姉妹店の&Eat.にてカフェでシェフをされている小林さん。カフェでのこと、個人名義でのmaboroshiについて、そのネーミングにまつわるエピソードも。

「&Eat.では会社に所属しています。SUUで販売しているお皿やカトラリー、家具や照明を実際使ってみたり、感じたりして購入の参考にしてもらえるようにしています。その雰囲気に合わせて『目で見て美しくて、食べたら美味しい』、『沢山食べても疲れない』をテーマにプレートメニューを決めています。」

「オーダーのケーキ、オードブル、ケータリングを行うmaboroshiは、個人の活動として取り組んでいます。数年前、友人主催のイベントで、お菓子の販売を依頼され、どんなものを作ろうか考えていた時に、とても面白い空の夢を見ました。その夢の記憶にあった空みたいなケーキを作ろうと思ったのがきっかけで、『ぼんやり頭の中にあるけど実際には無いもの、ありそうで無いもの』を作るので、maboroshiにしました。オーダメイドということで、オーダーしないと手に入らない、というところもmaboroshiっぽいなと思ってます。」

とても目を奪われる繊細なデザイン、彩りのあるケータリング、オードブルやケーキたち。色合いやデザインのインスピレーションは、お母様の影響が大きいようです。色彩と味についての興味深いお話も。

「母が自宅でフラワーアレンジメントの教室をしていたので、昔からお花に興味がありました。flower littleという札幌の円山にあるお花屋さんの作るお花が好きで、料理をする前から教室にも通ってました。料理の盛り付けやケーキのデコレーションは、フラワーアレンジメントを作るように盛り込んでると思います。Instagramでもお花屋さんのアカウントをチェックすることが多いです。」

「好きな色の組み合わせは、ディズニーのファンタジアの中の色合いにどうやら完全に影響されてるみたいです。何か一つ食材がお皿に乗っていたら、『それに合う色の食材も用意しよう』というような感じで好きな色合いにしていきます。色と味は結構リンクしていて、味の相性も良い場合が多いです。」 

お話からも溢れ出る料理愛が伝わってくるのですが、OTAKU気質なところもあるようで、やはり料理人!心をときめかせるお味に出会うことには積極的。

「【食べる】という行為は、衣食住の飢えを満たすという必要行為から飛び出して、音楽を聴いたり、映画やアートを観た時のような娯楽的喜びの要素が詰まっていると思ってます。目を見開く程の圧倒的美味しさや、噛んだ瞬間に弾ける味に驚いたり、食材の纏う湿度に色気を感じたり、初めて食べる味に世界観が変わったり。そういう体験が出来そうだな、と感じるメニューや商品があったら勉強だって言い訳して買ってしまいます。旅行に行くと大変で、食べきれない量のお菓子などを持って帰ってきて、お店のスタッフにも協力してもらい、全種類試してます。」

「去年は阿寒湖の両国という宿に泊まりました。そこで提供してくれるジビエのエゾシカ。熟成させた旨味が増して柔らかくなったモモやロースを、自分達で鉄板で焼いて食べるのですが、エゾシカは油分が少ないのでバターと一緒に焼きます。それが本当に最高です。」

小林さんはInstagramでも、気候変動や環境問題を発信しています。シェフを務めている&Eat.では、週替わりでワンプレートランチをメインに提供し、食材そのものの背景にも目を向けている取り組みが伝わってきます。&Eat.やMaboroshiでのプロジェクト、個人でできること、どんなことを実際に行動に起こされているのか、教えて頂きました。

「&Eat.では、沢山食べても疲れなくて、食べた後に気持ちがいいプレート、野菜が沢山あって、お肉が少しだけでも満足感があり、胃もたれしないような組み合わせのものを元々作ってました。

環境問題を意識した時に『気持ちがいい食べ物を作る』というのは、直接的な身体への負担が少ないものを作るだけじゃなく、その素材の背景に対する感情も、『気持ち良く感じられるものを選ぶ』ことなのではないかと思いました。そこでお店で使う肉の量を減らす為に、毎週お肉メインだったメニューを、肉・魚・野菜とローテーションさせるようにしました。なるべく道産の食材を使うようにもしてます。

さらに、店で1番出るゴミは野菜の皮だったので、食べられる皮は洗って細かく切って、ある程度の量になったらドライカレーかヴィーガンタコミートを作っています。」

「オードブルのプラスチック容器は、中身が見えるので綺麗で、安価。手に入れやすいですが、一回使ってすぐ捨てる為に、この容器を購入することに違和感を感じていました。去年から、返却してくれる方には、木箱に入れたオードブルを用意してます。環境のことを意識して生活されているお客様も多く、半分以上のお客様が木箱でオーダーしてくれてます。ケーキの箱を入れるマチの広い紙袋は、使い道があまりないので、今後はオリジナルの風呂敷を作れたらいいなと思ってます。」

「大切なのは、沢山の人の【ちりつも】、それを伝えられたらいいなと思っています。」

maboroshiでフードを担当されていた「青の星」という環境問題を提議したイベント。フードテーマは、「ちょっとだけレボリューション」でした。そのメッセージについては、環境問題に気負いしないで、完璧でなくても少しずつ行動に起こしていこうという、小さなことを日々積み重ねていく小さな革命。

「&Eat.でホールとして働いてくれている友人が、青の星を主催しています。彼女はここ数年、環境問題に熱心に取り組んでいます。環境のこと、さまざまな価値観について、常に共有をしていて、『自分の考えていることを、より多くの人に知ってもらえるようなイベントをやりたい』と相談してくれたので、一緒に協力させてもらうことにしました。

どんな事を発信しようかと考えた時に、食と環境の抱える問題の多さに、一度途方に暮れました。

産業的畜産の問題で、家畜の量が人間の数よりも多く、沢山の土地やエネルギーを消費している問題。家畜から排出される二酸化炭素の問題、排泄物などによる水質や土壌汚染の問題。

でも、それを解決する為に、全員がヴィーガンになればそれで良いのかというのも、きっと違う。畜産業に誠意を持って向き合って、大切に仕事をしている人を否定するのは違うんのではないか、と。

お肉を食べなければ、食べ方は自由なの?食品ロスの問題は?食材を保存するプラスチックの問題は?

自分が住んでる地域で野菜を作っているのに、その野菜は遠くに住む人に届けられる。スーパーには遠いところで採れた野菜が並んでいる。その輸送にどのくらいのエネルギーが使われている?

それを全部意識して行動できる人なんて、きっとなかなか居ないんじゃ無いかなって思います。私も全然出来ていない。でも、地球は凄くて、壊されたり汚されたりしても再生する力を持っている。だから、負担のペースを緩やかにする事が大事だと知りました。大切なのは、沢山の人の【ちりつも】、それを伝えられたらいいなと思っています。」

「『食べること』から発生する地球への負担を軽減するアイディアを、少しラフに伝えたくて、なんか力の抜けた名前で取り組んでいきたいと思い、『ちょっとだけレボリューション』という名前で活動する事に決めました。一度に色んな要素を伝えると、来てくれた方も大変なんじゃ無いかと思って、今回はまず、『肉だけが食事の主役じゃない』をメッセージに、いわゆるヴィーガンメニューとして野菜と豆のタコライスを作りました。晩ごはんの献立を考えた時に、『とりあえず肉を焼いておけば良い』という概念を一度壊せたらいいです。肉も魚も野菜も立ち位置をフラットにして、どれをメインにしても満足出来るんだってことを青の星とInstagramを使って、少しずつ伝えられたらと思ってます。これは来年の目標です。」

大好きなお料理という手段を使って、環境問題に対する個人の意識、日々の暮らしの中で出来ることをしていこうという小林さん。日本が誇る自然豊かな北海道に暮らし、素材の魅力を最大限に引き出すお仕事をされているからこその考え方もとても勉強になりました。

「私は料理を仕事にしていて、食べる事が好きで、野菜やお肉、果物、ハーブ、スパイスそれぞれの魅力を知ってるし、まだまだ知りたいし、きっと忘れられないんです。だから全ての欲を手放す事は考えてません。でも、これからも四季がある日本で、季節ごとの情景や体温から甦る思い出にキュンとしたいし、海や川は綺麗であって欲しいし、シロクマやペンギンやコアラやカンガルー。色んな野生動物が野生のままで生きてくれたら嬉しいなと思っています。

そして、そういう世界を姪っ子と甥っ子、大切な友達の宝物たちから奪う事はしたくないんです。その為にやれる事、それを全部やらなきゃいけないというわけじゃなく、沢山ある中の自分が出来そうなこと、やりたい事をチョイスして、それを取り入れていくことを沢山の人がすれば、大きな変化になるって思うんです。」

ご予約・年末オードブル

スパイスとハーブの効いた居酒屋・スパイスの穴ムジナとmaboroshiのコラボのお正月オードブルはご予約承り中!

(詳細は小林さんのInstagramをご確認ください。)

去年のオードブル。

個人オーダー

・札幌の&Eat.に取りに来て頂ける方限定

・ケーキとオードブルは基本的に2週間前まで、ケータリングは1ヶ月前までにDMを頂いた方にオーダー概要をお伝えしてます。

今年のクリスマスケーキは完売しております。

Photo & Comment : Mina Kobayashi
Edit & Text : Sonoka Takahashi

料理と同じくらい音楽が好きな小林さん。
今年の年末年始の音楽にまつわるお話や、北海道から東京にこれからオープンを控えたチキンのお店も紹介してくれました。今回記事に掲載できなかった情報も、Instagramにて更新致します。お楽しみに!

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